浮腫とは…

浮腫(一般的にむくみという)は体に水分が過剰にたまった状態です。

お酒を飲みすぎたら翌日顔がむくんだり、立ちっぱなしでいると夕方足がむくんだり…

病気がなくてもむくみは見られることがあります。

通常、体の水分を調整する機能が働き、むくみは時間がたてば治ります。

しかし何らかの影響で、水分を調整する機能に障害がでると体に水分がたまった状態になります。これを「浮腫」と呼びます。

どのようなメカニズムで浮腫がおこるのか…

体の構造成分のうち60%以上が水分です。

体の水分は細胞の外にある「細胞外液」と細胞内にある「細胞内液」に分けられます。

細胞外液には「血症」「リンパ液」「脳脊髄液」「間質液」などがあります。

細胞と細胞の隙間を満たす液体を「間質液」といいます。

間質液は毛細血管から濾出した液体で組織に栄養を与え、代謝産物を受け取ります。

 ⇒一部は静脈、一部はリンパ管に吸収されます。リンパに吸収された液をリンパ液といいます。

浮腫とは、間質液が過剰に貯留した状態です。

リンパ管の機能異常に起因する局所性浮腫と心臓、腎臓、内分泌機能異常に起因する全身性浮腫の2つに分けられ、それぞれ対処法が異なります。

浮腫が起こる5つの原因

血液やリンパ、間質ではたえず水の移動がされています。ここにかかわるのが「血管内圧」と「血漿膠質浸透圧」です。「血管内圧」は血管内の水分を間質に移動させる力で、「血漿膠質浸透圧」は間質の水分を血管内に移動させる力として働きます。この働きに障害が出ると浮腫が発生します。

①血管内圧の上昇

 心不全(右心不全)によって心臓の収縮力が弱まると「心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓」という血液の流れがスムーズにいかず、静脈がうっ滞します。静脈の血管内圧が高まり、間質から血管へ水分を移動させる力が弱まって、間質に水分が貯留し発生します。

血栓性静脈炎など静脈に閉塞がある場合も同じようなメカニズムで起こります。

②血漿膠質浸透圧の低下

 血漿膠質浸透圧は、血漿中の蛋白質(主としてアルブミンという蛋白質)の濃度に左右されます。低栄養やネフローゼ症候群、肝機能障害などにより血中のアルブミンが低下すると、間質から血液に水を移動させる力が弱まり、間質に水分が溜まってしまいます。

③ナトリウムの貯留(塩分の過剰摂取)

 血液中の水分やNa+は、腎臓の糸球体で濾過され、一部が尿細管で再吸収された後、尿中に出ていきます。腎臓の機能低下によってNa+や水の再吸収が増加すると、水分やNaが尿中に出ていかなくなり、結果として循環血液量が増えて血管内圧が上昇し、浮腫が起こります。

④毛細血管の透過性亢進

 感染症や熱傷、アレルギーなど体に侵襲が加わることで血管透過性が亢進し、間質に水分が移動することで起こります。

※血管透過性:血管とその周りの組織との間で起こる水分や栄養分の移動のしやすさ。通常アミノ酸など小さな物質は通過するが、たんぱく質はほとんど通過しない。血管透過性が亢進するとたんぱく質などの高分子物質も血管外へ移動してしまう。

⑤リンパ管系の閉塞

 間質液の一部はリンパ液としてリンパ管に吸収されています。リンパ管が圧迫や狭窄、閉塞することによってリンパ液の流れが滞ることで間質に水分がたまり起こります。

浮腫の種類は大きく分けて2つ

全身性浮腫:多くは左右対称に起こり、体重が増加し、圧迫時には圧痕が残ります。

種類特徴その他の所見
心疾患 (心不全、心筋梗塞など)重力に影響される労作時や夜間の呼吸困難 起坐呼吸 頸静脈怒張
腎疾患 (慢性・急性腎不全、ネフローゼ症候群など)急性糸球体腎炎では眼瞼など顔面に強い
ネフローゼ症候群では全身
倦怠感 食欲不振 蛋白尿高血圧
肝疾患 (肝硬変、急性肝炎、肝がんなど)腹水が著名に出現する倦怠感、痩せ、黄疸など肝障害の症状
脾腫や門脈亢進症状⑴
内分泌疾患 (甲状腺機能低下症、バセドウ病など)起床時に手や顔面に浮腫が起こり昼頃に改善する
右心不全による心性浮腫 前脛骨粘液水腫⑵
甲状腺機能低下の場合、指で押しても元に戻る非圧痕性浮腫(粘液水腫顔貌)
低タンパク質血症
鉄欠乏性貧血
右心不全
両心室不全では肺水腫⑶
低栄養性一次性(食事性):脚気⑷、飢餓浮腫
二次性(続発性):悪性腫瘍、吸収不良症候群、蛋白質喪失性胃腸症
感染防御能低下
創傷治癒遅延
代謝障害
  1. 門脈亢進症状:肝硬変の合併症に多い。腹部の膨隆、腹部の不快感、錯乱、消化管での出血につながる。
  2. 前脛骨粘液水腫:すねの前部の皮膚がこぶのように発赤して厚くなること。
  3. 肺水腫:肺胞内に水分がたまり、肺での酸素の取り組みが障害される病気。
  4. 脚気:ビタミンB1が欠乏して起こる病気。ビタミンB1はたんぱく質の代謝に関わり、不足すると末梢神経障害や心不全が起こる。

局所性浮腫:炎症症状(発赤、熱感、疼痛)を伴い、浮腫液はたんぱく質の多い浸出液です。

種類原因
静脈疾患 (深部静脈血栓症、静脈瘤など)血液凝固能の亢進
静脈血流の停滞、緩徐化
静脈血管壁の損傷
リンパ管疾患 (リンパ浮腫、リンパ管腫など)原発性(一次性):先天性、早発性、晩発性リンパ浮腫
続発性(二次性):手術後や外傷後、悪性リンパ浮腫 がん性リンパ管腫 寄生虫
炎症炎症、リウマチ、アレルギーなど

最後に…

浮腫とは客観的に観察できる症状であり、医療従事者だけでなく、患者、家族も症状の改善を望んでいます。

浮腫の種類とそれぞれの対策の違いを抑え、適切なケアを提供し、症状緩和につながることが求められています。

引用・参考文献:JTCA日本終末期ケア協会:終末期ケア専門士公式テキストp129-128、株式会社アステッキ

椎名美恵子、家崎芳恵:やさしくわかる訪問看護p94-95、ナツメ出版